大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所土浦支部 昭和46年(ワ)72号 判決 1977年1月28日

原告

栗山秀子

ほか三名

被告

小沼水産株式会社

ほか一名

主文

原告らの請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは連帯して

(一) 原告栗山秀子に対し金六八四万六一六六円

(二) 原告栗山剛志に対し金一〇六九万二三三四円

(三) 原告栗山普吾、同栗山里んに対し、それぞれ金三〇〇万円

および右金員に対するいずれも昭和四六年六月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和四六年三月一三日午後一一時三〇分

(二) 場所 土浦市白鳥町一一〇六の三四先道路

(三) 加害車 貨物自動車(茨1そ4404号)

右運転者 訴外 服部喜一

(四) 被害者 訴外 栗山力武(以下訴外力武という)

(五) 事故の態様

訴外力武は小型トラツク(被害車)を運転して右場所を土浦市神立町方面から出島村方向に進行中、対面進行してきた加害者と衝突

(六) 結果 訴外力武死亡

2  責任原因

(一) 被告小沼水産株式会社(以下被告会社という)使用者責任(民法七一五条一項)被告会社は訴外服部喜一を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、制限速度違反、前方不注視、センターラインオーバーの過失により本件事故を発生させた。仮にそうでなくとも結果回避のため、減速徐行義務警笛吹鳴義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然と進行した過失により本件事故を発生せしめた。

(二) 被告小沼亀吉

運行供用者責任(自賠法三条)

被告小沼亀吉は加害車を所有し、自己のため運行の用に供していた。

3  訴外力武の損害

訴外力武は事故当時二六歳でガソリンスタンドLPガス綜合燃料品販売および綜合食品、日用品雑貨の販売をしていて一年間の売上高は七〇〇万円で、純利益二〇〇万の収入を得ていた。右訴外人の就労可能年数は四四・六一年と考えられるから、同人の逸失利益を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利益を控除して算定すると、逸失利益は金一一五三万八五〇〇円となる。

4  原告らの損害

原告栗山秀子は、訴外力武の妻であり同栗山剛志は同人の長男、同栗山普吾、同栗山里んは同人の両親であるが、右訴外人の死亡により著しい精神的苦痛を被つたからその慰藉料は各金三〇〇万円が相当である。

5  原告栗山秀子、同栗山剛志は、右身分関係に基き訴外力武の損害賠償請求権を原告栗山秀子がその三分の一、同栗山剛志がその三分の二を、それぞれ相続した。

6  本訴請求

よつて請求の趣旨のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

同第一項の事実はすべて認める。

同第二項の(一)の事実のうち、訴外服部喜一に原告主張のような過失があつたことは否認し、その余の事実は認める。

同項の(二)の事実は否認する。被告小沼は加害車を前に所有していたが昭和四六年二月二日に被告会社に譲渡し、以後同会社が使用している。

同第三項の事実は争う。

同第四および第五項の事実のうち原告らの身分関係は認め、その余は争う。

三  被告らの主張

1  免責

仮に被告小沼亀吉が運行供用者責任を負うとしても本件事故は訴外力武の一方的過失によつて発生したものであり、訴外服部喜一には何ら過失がなく、加害車には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたから被告らには損害賠償責任がない。即ち、本件事故は訴外力武が酩酊のうえ被害車を運転し、センターラインを越えて対向車線に進入させ、かつ前方注視をせず進行した過失により発生したものである。

2  過失相殺

仮に被告らに責任があるとしても、本件事故の発生については原告にも前記のとおりの過失があるから、損害額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

3  損害の填補

自賠責保険より三五〇万円損害の填補がなされている。

四  被告らの主張に対する原告の答弁

1、2は争う。

3は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第一項の事実および被告会社が訴外服部喜一を雇用していて、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中に本件事故が発生した事実は当事者間に争いがない。被告小沼亀吉の本人尋問の結果によれば、被告小沼亀吉は加害車を昭和四四年一一月に購入し、同四六年二月二日に設立された被告会社に対し譲渡し、以後被告会社が業務の為に使用して本件事故当時も仙台に原料を仕入れに行く途中であつたことが認められ乙第三号証のうち右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はないから被告小沼亀吉に加害車の運行供用者としての責任を問うことはできない。

二  そこで、本件事故につき、訴外服部喜一に過失があるかどうかを検討する。

成立に争いのない乙第五号証の一、同号証の二の一ないし一四、同第六、第七、第一〇、第一七、第一八、第二〇および第二一号証を綜合すると本件事故の発生した場所には制限速度はなく、訴外服部喜一は時速四〇ないし五〇キロメートルで進行していたところ、約一一二・四メートル前方のカーブ付近に反対方向から進行してくる被害車の前照灯の光を認め、同車との距離が約八二・三メートルに近付いた際、同車が時速六〇ないし七〇キロメートルの速さでカーブを大きくまわり道路のセンターラインを半ば越えていて、ギクンと曲つたりふらふらしたりしていたこと、その時の同車の位置は非舗装道路と舗装道路との段差のあるあたりであつたこと、更に両車間の距離が約五一・九メートルに近付いた時、訴外服部喜一は被害車がセンターラインを完全に越えて自車の進行車線を進んでくるのに気付いたこと、訴外服部喜一は両車が接近するまでには相手が元の車線上に戻るものと考えて、そのまま進行したところ、両車間の距離が約二五・六メートルの地点になつても依然として被害車が加害車の進行車線上を進行してくるので危険を感じ、左路肩一杯に、ボールをこするほど車を寄せて行き、急ブレーキを踏むと同時に衝突したこと、その間訴外服部喜一はクラクシヨンはまつたく鳴らさなかつたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

右事実によれば、訴外服部喜一に制限速度違反・前方不注視、センターラインオーバーの過失があつたと認めることはできず他にそれを認めるに足る証拠はないので、次に減速徐行義務および警笛吹鳴義務について判断する。

前記認定のように訴外服部喜一は、両車の間が約八二・三メートルの距離に近付いた際、被害車がセンターラインを少し越えていることおよび曲つたりふらふらしたりという状態に気付いているが、その場所がカーブでありかつ非舗装道路と舗装道路との段差があることをよく認識していたことからすれば、被害車の右状態から直ちに異常運転であると判断し、警笛の吹鳴を含む何らかの回避行動をとるべきであつたとはいえない。

しかし、更に、両車が約五一・九メートルの距離に近付いた際には訴外服部喜一は、被害車がセンターラインを完全に越えて加害車の進行車線内を進行してくるのに気付いており、その時点にあつても右訴外人が警笛の吹鳴および減速をしなかつたことは前記認定事実により明らかなところである。

ところで、減速義務については自動車運転者としては相手方が前方注視義務を尽し、危険を回避するため適切な運転操作をするものと信頼して運転すれば足りるのであるから、被害車のごとく対向車の進行車線内を進行しつづけてくることを予想して直ちに減速あるいは一時停止の措置をとり、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はないものと解するのが相当である。

しかし、警笛を吹鳴して相手方に警告を与えることは事故の非惨さに比して極めて容易であるから、かかる場合、一般的には警音器吹鳴義務があるということができるが、本件にあつては警音器を吹鳴したことによつて衝突が回避しえたかどうかにつき検討する。右の時点において訴外服部喜一が警音器を吹鳴するのに少くとも〇・六秒以上は要するものと考えられ、訴外力武が右警鳴に気付いてハンドルを左へ転把するには、当時同訴外人が、夜間で加害車の前照灯が当然視野に入るはずであるにもかかわらずセンターラインを越えて衝突直前まで進行していた状態に鑑みるならば、いかに少くとも一・六秒は要するものと考えられるから、当時の両車のスピードを勘案するならば、右警鳴によつても結果の回避は不可能であつたから、訴外服部に警鳴義務を負わせることはできない。

してみると、訴外服部喜一の過失はどの時点においても認められないから、それを前提とする被告会社に対する請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

三  よつて、原告らの請求は、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小野聡子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例